へんなことばのはなしWatchamacallit, Macgafin, Dealなど

なんと呼んでいいものか不明な物や事柄のことを「あれ」「これ」「なんちゃら」と代名詞で言ってしまうことが多々あります。

英語では「Wathamacallit」(発音は「ワッチャマコーリット」)がこれに当てはまります。語源は「What you may call it. あなたがそれを呼ぶこと」を音の通りに一つの単語にした言葉。使い方の感覚は「なんちゃら」に近い。よく年配の方が物の名前を度忘れして、はっきりと名前を云えない時に「なんだっけ、これ、ワッチャマコーリット」と思わず言ってしまう場面が多いです。言葉の響きがユーモラスで可笑しくて、相手が誰であれこの言葉を使っていると、思わず笑ってしまいます。大好きな英単語の一つ。

同じように「deal」も使います。例えば、靴紐(Shoelace)の結び方を説明している時、相手に「put it through the right hand hall, and cross it against other one to make the ring右側から紐を穴に通して交差させてから輪にして」と手順を見せながら、「then, you pull this deal that came out from under the ring下からこちら側の穴にでてきた【こいつ】を引っ張る」という風に。その物を強調する言い方をします。名詞「deal」は契約や取引、バーゲン品、トランプの手札の意味もありますが、この「this deal」というハッキリと決まった名称のない物の代名詞的な使い方は会話でよく使うのに不思議と辞書には見当たりません。

名前を云えないもの。名前のないもの。実体がはっきりしないもの。

映画で使われるプロットに「マクガフィンMacGuffin」というものがあります。物語の進行上、とても重要な物や事柄であるにもかかわらず実体がわからない、はっきりとしないもの。

最近観た映画「テネットTENET」の「アルゴリズム」がそうですね。アルゴリズムを巡って主人公たちが奔走するのが物語の主軸。映画の中でもアルゴリズム(もしくはその一部分)が映し出されますが、その物体が何であるのかはわからない。マクガフィンです。

先日、テレビでヒッチコックの「汚名」を観ました。大好きな映画。スリラーの名作です。白黒映画の効果を最大限に活かした撮影とプロット。主人公のイングリッド・バーグマンは、アメリカ政府諜報員のケーリー・グラントとパーティで出逢い、酷く酔っぱらった翌日、枕元にグラスに入ったミルクを置かれて飲むように言われる。なんでもないこの場面ですが、その後バーグマン演ずるエルサが夫と義母に飲まされるコーヒーの「黒」と対照的です。撮影時は、特別に豆電球でグラスの中のミルクが「白く」映るように工夫されたそうです。確かに、グラスがぼんやりと光っているように見えます。

この映画はマクガフィンが効果的に使われた代表的な映画として有名です。

エルサの夫の邸宅の地下にあるワインセラーに隠されたもの。ワインボトルが床に落ちて割れて中から真っ黒な粉状の物質が散らばる場面。

物質が何かは映画の最後まで一切明かされません。エルサの夫は、ワインボトルの異変に気付き、エルサがアメリカのスパイであることを確信します。怖いですね。映画はサスペンススリラーと同時に超一級のラブロマンスです。エルサが美しく、ケーリー・グラントはとびきりハンサム。二人が画面に居るだけで絵になる。

ケーリー・グラントが飲ませるミルク:白
エルサの夫と姑が飲ませるコーヒー:黒
エルサの夫が隠す物質:黒(マクガフィン)

善悪、敵味方がはっきりと白黒で表現されていて、視覚的効果がばっちりです。

最近、この映画のバーグマンのカラースチルを見る機会がありました。ケーリー・グラントと外で待ち合わせる時の恰好は茶色のツイードのジャケットに若葉色のブラウス、唇には真っ赤なルージュ。上品な装いと同時に色っぽい。白黒映画で見ると印象が全く違って見えます。色彩って不思議。

汚名の他に、マクガフィンで有名なのは「パルプフィクション」。ジョン・トラボルタとサミュエル・L・ジャクソンが運ぶブリーフケースの中の「ブツ」です。物語の途中、ケースを開けたトラボルタが驚き思わずFワードを口から漏らしてしまう。鞄の中から放たれる光から、なにか物凄く価値のあるものであることは確か。でも最後まで何かは明らかにされない。そして、このブリーフケースの中身を運ぶ二人とそれに関わる様々な群像劇が繰り広げられます。物語の進行上、実際に何であるかは、映像的には実は重要でない。マクガフィンは単語そのものの響きも不思議でとてもへんな言葉です。

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