パンデミックはどのように終息するのか How the Pandemic Will End

先進国の中でアメリカはCOVID-19蔓延により最悪の事態に。今後どのように展開していくか。

2020年3月25日付 The Atlantic

エド・ヨンによるコラム Story by Ed Yong via The Atlantic

3か月前、SARSが存在することを誰も知らなかった。今、ウィルスが世界的に広がり、判明している限りで、44万6千人が感染している。そして、実際に感染していても把握されていない人数がこの他にも存在している事を忘れてはならない。新型ウィルスはアメリカの経済と医療システムを崩壊させた。現在、病院は人で溢れかえり、公共スペースから人の影が無くなっている。人々は職場や友人と離れなければならなくなった。今日現在、生きている人々は、今までに味わった事のないスケールで現代社会が破壊していることを目にしていると思う。間もなくアメリカにいる全ての人が、身近な知り合いが感染していくという事態に陥るだろう。第二次世界大戦や9.11のテロ攻撃のように、このパンデミックは合衆国の人々の精神に多大な影響を与えている。

世界的パンデミックになる事は避けられない。近年、何百人という医療問題の専門家がパンデミックの可能性について著書、白書、論説を書いている。ビル・ゲイツはTEDトークで18万人の聴衆に向けてパンデミックの可能性を語っていた。2018年、私はアトランティック誌に、アメリカはいずれ起こるパンデミックに十分準備が出来ていないという論説を書いた。その年の10月に、医療安全の為にジョンホプキンズセンターが、地球を新型コロナウィルスが襲ったらどうなるかという想定でシミュレーション(ウォーゲーム)を行った。そして実際にパンデミックは起きた。仮説が現実となったのだ。「もしそうなったら?」が「じゃあ、どうするの」に変わった。

そして、「ではどうする?」となるわけだが。先週水曜日の深夜遅く、もうそれも遠い昔に感じるが、もうすぐ出産を控えている友人と私はパンデミックについて話していた。彼女のベイビーは統計学的にCOVID-19によって激変した社会に生まれる最初の「群」の一人となる。私たちは、この「群」を「ジェネレーションC」と名付けた。

お分かりになる通り、ジェネレーションCの生命はここ数週間の政府の選択とその結果における数多くの喪失によって形成される。でも最初に、短期間での出来事について触れたい。世界医療安全指標では、各国のパンデミックに対する準備度が示されている。アメリカ合衆国は83.5のスコアで世界一位だ。国が豊かで強靭な先進国であるアメリカは、世界で一番準備体制が整っていると思われていた。この幻想は見事に打ち砕かれた。何か月も前に他国でウィルスが伝播している警告を受けていながら、COVID-19が襲ってくるとアメリカは見事に失敗した。

「何をどうやっても、(SARSのような)ウィルスによって最新医療システムのレジリエンス(回復力)が試される」と語るのは、ボストン医科大の感染症医師のナヒド・バーデリア氏。季節性インフルエンザより感染力が強く致死率の高い新型コロナウィルスは「より密やかに」人から人へ伝播しやすく発症するまでに数日を要する。このような病原体を持つウィルスについては、各国が検査薬を開発し感染者を特定して隔離し、接触した人を追跡調査する必要がある。これは韓国、シンガポール、香港が行い、非常に効果があった。だが、アメリカではこういった処置を実施しなかった。

私の同僚、アレックス・マドリガルとロビンソン・メイヤーが、疾病予防管理センターが2月に行なった診断検査は偽造であったと報告した。独立系の研究所が別にテストを試みたが、それもFDA(アメリカ食品医薬品局)の官僚主義の中に嵌め込まれてしまっている。危険回避の正念場であった数か月間に何万人という感染者が出ていても、数百人しか検査を受けられない状況だった。文字通り想像し難いのだが、本当に簡単な診断用検査の作成でさえも、バイオ医療大国のアメリカは失敗しているのだ。感染症に関する法律と政治問題を専門とするジョージタウン大学のアレクサンドラ・フェラン教授は、「検査の失敗が同時に起きる事自体、想定していなかった」と語っている。

診断検査の失敗はアメリカのパンデミック敗北の原罪となった。たった一つの失敗が全ての防御策の失敗に繋がって行く。もし国全体で、ウィルス拡散の正確な追跡が出来ていたら、病院はパンデミック対策を発動できただろう。医療従事者がウィルスから防御をしながら、病床数を調整、備蓄品の確保、スタッフ配置、必要な人材をCOVID-19のケアの為の特別施設に送りこむことが出来ただろう。だが、これらのどれ一つとして実行されなかった。

代りに、医療システムが既に収容可能人数がほぼ満員に近い中、季節性インフルエンザで既に厳しい状況だったところに、突然新型ウィルスが襲い、追跡されないまま国中のあらゆるコミュニティで拡散していった。収容可能人数を大幅にオーバーしている病院は、さらにウィルス感染者の数に圧倒されている。マスク、ガウン、手袋のような基準防護器具が品薄になって来ている。換気機能とウィルスで呼吸困難になった肺機能を補助するための呼吸装置を整備した病床が足りなくなるのは時間の問題だ。

危機の間、これ以上の急増に堪える余裕がないまま、アメリカの医療システムは、緊急の場合、窮地に陥った患者は感染が発生していない州でケアをする想定で事を進めていた。この様な想定は、ハリケーンや大規模火災などのように特定地域だけに起きる災害であれば相互倫理上可能だったかもしれない。でも、50州で同時発生しているパンデミックでは無理だ。協力の精神より競争心が勝り、病院が備蓄品を買い占めてしまうのではという憶測でパニックを起こした消費者がトイレットペーパーを買い占めてしまった。

この状況の原因の一部として、ホワイトハウスには科学分野の専門家がごっそりと居なくなった事が考えられる。2018年に国家安全局の一部門であったパンデミック対応委員会が解散を余儀なくされた。同年1月28日付で委員会のチームメンバーであるルチアナ・ボリオが政府に「アメリカでの疫病を防ぐように動いてください」と簡易診断検査を速やかに開発するようにプライベートセクターを動かすよう訴えたが、パンデミック対応委員会と事務局は閉鎖された。訴えは大統領の耳に届かず、ボリオ氏の警鐘はウォールストリートジャーナルに掲載された。このように、疫病への対応をすることなく、アメリカは怠惰にずっと動かずにいた事は確かだ。

先導者もなく、不意打ちを食らい、無気力なままぎくしゃくとして、アメリカはCOVID-19を見誤り、医療問題の専門家がかつてないほどに恐れた以上に重大な過誤を起こしている。「想定よりかなり悪い状態です」と語るのは、2014年西アフリカで起きたエボラ出血熱蔓延対策にアメリカ政府コーディネーターを務めたロン・クレイン氏。「予想を遥かに超えた最悪の状況」とジョンズホプキンズセンター医師で災害対策委員会所属するローレン・ソーイヤー女史は語る。「アメリカ人として、非常に恐ろしく感じています。アメリカは産業先進国の中でも最悪の状態に陥るでしょう」と話すのはワクチンアライアンスの主席研究員のセス・バークリー氏。

I. 来月以降 Next Months

全てが立ち遅れている今、アメリカにとって相当に困難な状況であるが、全てが不可能ではない。ある一定範囲での短期的計画を打ち立てる事が出来た。これは、COVID-19がゆっくりと進行し長く患う疾病だからである。現状把握されているのは、人が感染すると、数日後に症状が現れ始める、社会的距離措置をされていても感染症は発症する。今のタイミング(3月26日現在)で感染した場合、4月初旬に集中治療室が必要になる患者が出てくるだろう。先週末までに、全米で1万7千人の感染者が確認された。しかし、実際の感染者数は、6万から24万5千人と推測される。感染者数は急激に増え始めている。水曜日午前中の時点で感染者数は5万4千人だった。実際の感染者数は不明だ。医療従事者は気掛かりな兆候を訴えている。使い古されている医療器具、増え続ける患者、そして医師や看護師が感染し始めている。

イタリアとスペインでは将来の暗い見通しを警告してきている。病院の部屋は満室になり、備蓄やスタッフが不足。患者を治療することも助けることも出来ず、医師は最も生き延びる可能性のある患者を選別し優先してケアをすることになる。放置された患者は死を待つしかない。アメリカはイタリアに比べて、人口に対する病床の数は少ない。ロンドンのインペリアルカレッジの研究チームは、このままパンデミックが正確に確認されないままだと、4月下旬にはベッドが足りなくなると発表している。6月末までに、集中治療用ベッド一台に対して、COVID-19の患者が15人と試算されている。夏の終わり頃までに、アメリカ国内で、パンデミックにより2百2万人が死亡する。この数字には、病院で通常は治療を受けられる筈の心不全や心臓発作、交通事故などで亡くなる人数を含めていない。これは最悪の場合のシナリオだ。これを覆すには、4つの事に取り掛からなければならない。それも速やかに。

最初に、そして最も大切な事として、マスク、手袋、などの防御器具を迅速に生産すること。もし医療従事者が健康を維持できない場合、この後の展開は望めない。既に一部の地域では防御器具の備蓄も底をつき始めている。医師は患者を診るのに使い古したマスクを着けて治療にあたっている。公にマスクの寄付を呼び掛け、自作でマスクを縫って作って対応をしている。

合衆国では、国家備蓄計画という医療の備蓄計画を発動している。特に、感染者が爆発的に増加している州に対応するためだ。備蓄は無尽蔵と言うわけではないが、暫くは持ちこたえるだろう。ドナルド・トランプはその間に「防御品製造法」を発令することが出来る。戦時中と同じように、アメリカの製造業者は医療器具の製造にとりかかる。しかし、先週水曜日の対策報告の後、トランプはその新法施工に失敗した。報道された内容によると、アメリカ商工会議所と大手企業トップからの圧力がかかり、新法の発令が不可能になったとのこと。

製造業者の何社かは既にこの状況にチャレンジしている。しかし、これらの企業の製造量はごく僅かで、国家全体に行き渡ることはまずない。「X市の医師が、バンダナで口を覆って、治療をしているにもかかわらず、Y市の備蓄庫には、山のようにマスクが保管されている」という事が起きうると話すのは、公共医療についての研究者であるネブラスカメディカルセンターのアリ・カーン氏。「アメリカ全土を網羅する巨大流通とサプライチェーンが必要」だと語るのは、公共医療について研究するジョンズホプキンズブルームバーグスクールのトーマス・イングルズビー。これらの計画は、ホワイトハウス内の経験を積んでいない管理チームでは、統率するのは不可能だ。解決策として、「防衛流通局」を立ち上げる。2万6千人の人材グループを組織し海外駐屯しているアメリカ軍に対応をさせる。これは実際に2014年のエボラ出血熱の蔓延時に対応した経験で有効であることが判っている。

防衛流通局は第二の要請においても出動可能である。COVID-19の診断検査の実施。診断検査の実施がなかなか進んでいないのは、医療器具や人材が不足しているためである。検査師がつけるマスク、ウィルスサンプルを採取する鼻腔綿パッド、ウィルス採取キット、採取キットに使う化学試薬、検査技師。これらの不足の原因はサプライチェーンが機能していないからである。アメリカは採取用化学試薬の製造を3つの製造業会社に依存している。供給が途絶える事を見越して、重複発注しているが、既に世界中で化学試薬の供給が間に合わず、入手に失敗している。ヨーロッパの感染者数でトップのイタリア、ロンバルディア州は鼻孔検査用の脱脂綿の最大製造会社がある場所だ。

備蓄が途絶えそうな物は公表されている。FDAは個人企業の研究施設での検査承認手続きが迅速に行えるよう規制変更した。少なくとも診断薬で1時間後に結果が判るというもので、医師の目の前の患者が、COVID-19に感染しているかが判明する。国を挙げて「毎日収容人数を増やしている」と応えたのは、公共医療研究所協会のケリー・ウロブレスキ。

3月6日付で、トランプは「検査を希望する人は、受ける事が可能だ」と発言した。これは明らかな嘘で、側近が直ぐに訂正した。不安に駆られている人々は検査ができると病院に溢れかえったが、検査薬自体が存在しなかったのだ。にもかかわらず、「症状がなくても、誰もが検査を受けたがっている。隣に座った人が咳をしただけで、検査しなければと病院に来る」とジョージメイソン大学のセスキア・ポペスキュ教授は語る。こういった人たち意外の人々も病院に来る症状は、風邪にもかかわらず、医師はマスクをつけて診断しなければならない。既にマスクは入手が困難な状態なのに。「医療システムにとってはストレスだ。患者の収容人数が増えたとしても、検査は慎重に行われなければならない」ハーバード大学のマーク・リプシッチ教授は語る。最優先させることは、医療従事者の検査だ。それから入院患者。まず病院が感染の火を消さなければならない。危急の事態が緩和された後、検査を拡散していけばいい。「これは『検査試薬があるなら、検査してしまえ』というやり方では駄目だ」とイングルズビーは語る。

対策には時間がかかる。この間にもパンデミックは爆発的に拡大し、医療システムの収容人数を遥かに超過するか、病院の受け入れ状況に見合うレベルに収束するか。将来の方向、国家の運命は、三つ目のニーズにかかっている。これは社会的距離の事だ。これは、こう考えればいいだろう。現在、アメリカには二つのグループが存在している。グループAは医療従事者で、患者を治療、検査、もしくは医療用品を製造している人達で形成される。グループBはそれ以外の人々全てを指す。グループBはグループ Aの時間猶予を稼ぐことが出来るグループだ。グループBは感染の連鎖を断ち切る為に物理的に人との接触を避けて「感染曲線を抑え込む」べきだ。COVID-19の爆発的拡散を抑えることで、医療システムの崩壊を防ぐことができる。思い切った手順を速やかにとる必要があるだろう。爆発的拡散曲線の均衡がとれたと感じるには、数週間の隔離措置を取るべきだ。

国民全員を家の中に待機させるよう説得するのは、ホワイトハウス、市長、州知事より明確なガイドラインを与えない限り容易なことではない。会社経営者は独自に対応するように求められた。いくつかの州では、集会を禁じ、学校やレストランを閉鎖した。少なくとも21の州で隔離対策を実施し、市民の自宅待機を強制的に実施している。それでも多くの市民が公共の場所に集まっている。

この瞬間にも、多くの明確な協力が良い効果をあげていることが重要である。これが4つ目のニーズだ。社会的距離の重要性を国民に公表して情報を与えることだ。代わりに、トランプは問題を繰り返し隠蔽した。アメリカは「コントロール出来ている」と公然と発表しているが、実際は出来ていない。そして、トランプは「感染者の数はゼロに近くなってきている」といいながら、実際には急増していた。彼の発言の内、既存の検査についての非難もあった。トランプの失態は危機を更に深刻なものにした挙句に、未承認の薬をもてはやす発言までしている。

ホワイトハウスのプレスルームから離れて、トランプが国立アレルギー感染症研究所の所長であるアンソニー・ファウチ氏のレクチャーを受けているのは明らかだ。ファウチ氏はロナルド・レーガン政権時代から新しい疫病対応の大統領へのアドバイザーを務めている。そして、ファウチ氏は現在COVID-19タスクフォースとして、2日おきに大統領と会議を開いている。ファウチ氏は私に「トランプ大統領は彼なりのやり方で対応している。このまま彼の思うようにさせておこう。だが、今まで私が勧めた事は全て、大統領には聞いてもらっている」と語った。

それでも、トランプは煮え切らない。最近では、社会的距離政策を撤回する準備をしていると仄めかし始めた。経済保護という理由で。評論家やビジネスリーダーは同様の表現を使って、感染リスクの高い高齢者だけを隔離して、若者は経済を支える為に仕事に戻るべきだと主張している。こういったアイデアは良い様に聞こえるが欠陥がある。ビジネスリーダー達の主張は人の抱えるリスク評価を過大評価していて、「ハイリスクの人々」を社会から遠ざける政策にも繋がる。病院が満杯になり、若い人口が病気になった場合、若者たちは診断を受けるのも困難になるだろう。

ペンシルバニア大学の最新研究では、隔離政策で95%感染率を抑え込んだとしても、96万人のアメリカ人が集中治療を必要になると試算している。人工呼吸器の数は18万個しかなく、呼吸器系治療の専門医が確実に診ることが出来る患者の数は、たった10万人である。社会的隔離政策を止めることは馬鹿げている。検査薬や防御器具が不足している今、社会的距離政策を止めたら壊滅的な状態になるだろう。

トランプが今の政策を維持したまま国民が社会的距離をとる状態を続けたら、そして検査が広がり、マスクが生産されたら、COVID-19の最悪の事態を覆すことが出来るチャンスがある。少なくとも、一時的にでもパンデミックを抑え込むことができる。これがどれぐらい長くかかるのかは、誰にも判らない。恐らく早くには終わらないだろう。「4週間から6週間、それから3か月の間のいつか」とファウチ氏は語る。「でも、この時間範囲に関して、わたしも大した自信を持ち合わせていない」

II. エンドゲーム The Endgame

完璧に対応できたとしても、パンデミックを終息させることはないだろう。ウィルスに耐性がある限り、1人の旅行者が感染したら一度は消えた炎がまた燃えさかるように感染が広がる可能性がある。これは既に中国、シンガポール、そのほかのアジア圏の国で短期的にウィルスを抑え込んだ後に発生している。これらを踏まえて、エンドゲームには3通りのシナリオを想定した。第1シナリオが発生する可能性は低い。第2シナリオは大きな危険を伴う、そして第3シナリオについては、長い時間を要する。

第1シナリオは、2003年のSARS発生時のように、世界各国で同時にウィルス治療にあたった。新型コロナウィルスパンデミックがどれ程拡散したかを考えると、この方法が既に破綻しているのが判る。世界的な感染症をコントロールする可能性は明らかに低いと言えるだろう。

第2シナリオは、過去のインフルエンザと新型ウィルスは異なるという点である。世界中で感染後に致死するケースが多く、免疫抗体を持った生存者が十分に残っていない。この免疫抗体保持者を探すのが苦労を伴う。この「抗体群」シナリオは問題解消を早める故に非常に惹かれるが、多くの犠牲を払うことになる。SARSはインフルエンザより感染力が強く、より致死率が高かった。「抗体群」を獲得するために何百という遺体が発生するだろう、医療システムは崩壊する。英国では「抗体群」戦略を当初取ろうとしたが、戦略モデルが悲惨な結果を示した為に撤回した。アメリカは今、この戦略を検討しているように見える。

第3シナリオは、ワクチンが生産されるまで、気長にゲームをプレイすることだ。モグラ叩きゲームのように、至るところでアウトブレークが起きる度に、それを叩いて封じ込めるということを繰り返す。これが一番良い選択だが、期間的に一番長くかかり、最も複雑な作業を要する。

まず、ワクチン製造に頼ることになる。もしこれが新型インフルエンザパンデミックなら、簡単だっただろう。世界各国がインフルエンザワクチンの製造方法を把握している。でもコロナウィルスに関しては、未知の病気であり、軽病でもあり奇病だ。だから研究者はゼロからスタートしなければならない。アメリカで最初のステップに即時に取り掛かったのは印象的だった。先週の月曜日、モデルナ社と国立医療施設がワクチンとして可能性のあるものを作り、早期臨床段階に入っている。これで研究者たちがウィルス遺伝子配列を解読するのに63日間のギャップをマークした。初のケースであり、医師が対象ワクチンを人体の腕に注射したのだ。ファウチ氏によると、「これ程の早期の臨床実施は世界記録だ」と言っている。

しかし、これに続く実施案件の臨床がゆっくりである事は確かだ。最初の臨床試験はワクチンが安全に見えるかの確認。そして実際に抗体システムを搭載できるかをチェックする。研究者たちは、それからSARS-CoV-2の感染を防止できるかをチェックする。動物実験と大規模な臨床試験を実施してワクチンに重度の副作用が出ないかをチェックする。投与量、ヒトへの投与回数についても調べなければならない。年配の人にワクチンが有効か、同時に効果を上げる為の他の化合物についても検討する。

「うまく行ったとしても、大量生産をするのは困難をともなう」と語るのは、Gaviワクチンアライアンス事務局長のセス・バークレー博士だ。理由としてモデルナ社は新しいワクチン製造アプローチをしているからだ。既存のワクチンは、不活性化や断片化したウィルスを投与することで、ヒトの身体が事前に免疫システムを生成するが、モデルナ社のワクチンは、

SARS-CoV-2の遺伝子試料(RNA)の薄片で出来ている。身体はこの薄片を使ってウィルスのかけらを作り出す。これが免疫システムの基礎栄養素となる。

このアプローチを動物に行なうことは出来た、ヒトではまだ確認できていない。一方で、フランスの科学者たちは、既存のはしかワクチンに新型コロナワクチンの破片を使って変更を加えている。「この方法のメリットは、明日何百もの投与数が必要となった場合でも、世界中のワクチン製造業者が製造を請け負うことができる」とバークリー博士は語る。

どの戦略が早期にワクチン製造を開始出来ても、投与可能なワクチンが出来るまで、12か月から18か月はかかり、生産、輸送、そして、ヒトの腕に注射を打つまで更に時間が掛かると話した。

このように、ワクチン製造まで順調に進んだとしても、新型コロナウィルスは少なくとも一年間はアメリカで生き長らえるという見方が強い、そうでければ、もっと長期間だ。もし、現在実施されている社会的隔離政策が功を奏せば、パンデミックは衰退し、全てが上辺だけでも通常に戻るだろう。オフィスやバーに人が増えて活気が戻る。学校が再開して友人と会う事も叶う。しかし、元の状態に戻れば、ウィルスも元に戻るだろう。だからといって、2022年まで社会封鎖をしろという訳ではない。でも、「我々は社会隔離政策を数年間実施する必要があるだろう」とハーバード大学のステファン・キスラーは語る。

これからの数年間、ウィルスはその二つの特性を持って、頻発し耐性を持つようになるだろう。社会的大混乱も起きる。現在のところ、ウィルスの特性は未知である。第一に季節性ということ。コロナウィルスは冬型の感染症で夏には衰退する。これはSARS- CoV-2にも該当する。しかし、季節型とはいっても免疫学的に罹患していない人が沢山いる場合、ウィルスの蔓延を緩和することは不可能だろう。「世界中が注目しているのは、夏になって北半球の地域でパンデミックにどれぐらい影響が出るかという点です」と語るのは、ハーバード医科大小児病院のマイア・マジュンダー。

第二に、免疫持続期間である。人が軽度のヒトコロナウィルスに感染して風邪のような症状が出た時、免疫は1年も継続しない。ところが、風邪より重症のSARSウィルスに感染した数少ない人たちは、免疫をより長く持つようになった。SARS-CoV-2が軽度ヒトコロナウィルスとCOVID-19の中間にあるウィルスだと推測して、一度どちらかを発症した場合は、約2年間は免疫を得ることになる。これを確認するために、科学者たちは精密血清検査を開発中だ。この検査で免疫をつくる抗体を持っているかを確認することができる。科学者たちは、これらの抗体が実際に、ヒトがウィルスに感染するのを止めることが出来るのかを確認する必要がある。もし、それが可能なら、抗体を持っている人は仕事に戻ることが可能で、弱っている人を助け、社会隔離政策で落ち込んでいる経済を立て直すことが出来る。

科学者たちは一時的猶予を抗ウィルス薬の開発に充てることができるだろう。でもこれらの薬は滅多に特効薬とはならない。それに副作用や耐性菌発生のリスクを抱えることになる。だが医療施設はこの一時的猶予の期間に備蓄の確保が出来るだろう。ウィルスが再び蔓延する前に検査薬を広く行き渡らせることも出来る。アメリカはSARS-CoV-2を再び蔓延させることはしないだろう。だからこそ今発令している社会隔離政策を更に強化することが必要だ。「学校やビジネスの再開は可能な限り出来るようにしたい。ウィルスの抑え込みが失敗した時に速やかに閉鎖すればいい。感染症が再び収まったら再開する。防御ばかりでなく、私たちは攻める事も必要だろう」

免疫を持つ「群」を地道に増やしていくにしろ、ワクチンが手元に行き渡るまで待つにしろ、ウィルスは爆発的に拡散し困難も増すだろう。ウィルスは完全に消滅することはない。ウィルスが進化する度に、ワクチンも更新する必要が出て来る。インフルエンザ予防接種のように毎年のようにワクチン接種を実施するようになる。世界中でウィルスはくすぶり続け、数年事に疫病として蔓延するとモデルが示されている。「でも、疾病の重症化は減少する事を期待している、社会的大混乱も同じように減っていく」とキスラー氏は語る。これからCOVID-19は今のインフルエンザウィルスのようになり、毎年冬が来ると流行するようになる。おそらく、余りにも日常的な出来事になって大部分のジェレネーションCは感染しても平気になるだろう。どれ程劇的に世界がウィルスによって変容したのかという事に気づくこともなく。

III. パンデミック終息後の影響 The Aftermath

そこに到達するまでの犠牲は、出来る限り死者を出さずにいたとしても、相当のものになるだろう。同僚のアニー・ロウリーが記事に書いているように、「現在生存している人々が嘗て味わった事のない程に突然の深刻な」衝撃である。5人に1人が余儀なく失業するようになる。ホテルは空室、航空機は地上待機し、飲食業や中小企業は閉店し、貧富の差は更に広がる。社会的距離政策は低所得者に最も厳しい生活をもたらす。そして慢性の健康障害でさらに重度の感染症にかかるリスクが増加する。感染症により都市や社会は何倍にも弱体化した。「こういった事態に今までアメリカは陥ったことがなかったのです」と話すのはカリフォルニア州立大学バークレー校の医薬史専門のエレナ・コニス。「国家としてのアメリカは都市や大都会よりもっと都会化していると言えるでしょう。現代はより多くの人が非常に遠く離れた距離を行き来し、家族や仕事から離れている社会なのです」

感染症が衰退し始めてから、メンタルヘルス問題のパンデミックが二次的に発生することが予想される。深刻な不安感や不透明感を感じるこの瞬間に、我々の心を慰める人とのふれあいが断たれている。ハグや握手、その他の社会的儀礼が危険を伴うものになった。不安症や強迫神経症を患う人々が苦しんでいる。一般生活から既に排除された高齢者は更に強制的に隔離されて孤独に苛まれている。アジア人は人種差別に苦しみ、大統領が新型コロナウィルスを「中国型ウィルス」と呼び続けていることで更に輪をかけている。自宅が危険な場所にもかかわらず、自宅待機しなければならず家庭内暴力や児童虐待のリスクが高まっている。子供たちはウィルスから逃れたとしても、精神的トラウマは大人になっても続く可能性がある。

パンデミックの後、COVID-19から回復した人々が差別される可能性もある。これはエボラ出血熱、SARS、HIVでも起こったことだ。医療従事者は癒えるまでに時間がかかるだろう。トロントにSARSが蔓延した時に治療に関わった医療従事者は非生産的で燃え尽き症候群やPTSDの症状を発生しやすい。長い隔離期間を経た人は心に傷を負いやすい。「武漢の同僚から聞いた話では、現地の人々は家の外に出たがらず、【広場恐怖症】になっている」と語るのは、ブリティッシュコロンビア大学のスティーブン・テイラー氏。彼は「パンデミック心理学」の著者である。

でも、「このトラウマを克服した後に、より良い世の中になる可能性があることも確かです」と新アメリカ安全保障センターのリチャード・デンジッグ氏は言っている。既にコミュニティは離れている必要があっても、共に耐える新しい方法を見つけている。医療に対する姿勢は良い方向に変わるだろう。HIVが蔓延し、AIDSに人々が罹った時、疫病のピーク時に性的に成熟していた人々のセックス行動は完全に変化した」とコニス氏は語る。「コンドーム使用が当たり前のようになり、STDの検査を受けることが一般化した」これと同じように、手洗いを20秒以上かけて丁寧に行うことも、それまで医療従事者でも完璧に手洗いを身に付けるのに苦労していたにも関わらず、人々は普通の習慣として行うようになった。そして、この習慣は『パンデミック』を意識しなくてもこれから続いていくことになると思う」とコニス氏は語った。

パンデミックは社会の変容をもたらす。人、ビジネス、施設や団体は嘗てぐずぐずとして取り掛からなかった事を驚異的な速さで実践するようになった。実践されるようになった事柄には、在宅ワーク、障害者救済の会議、病欠の取り易さ、チャイルドケアへの対応などを含む。「これは私の人生初めての経験です。『まあ、病気なのね。家にいてください』と誰かが言っているのがオフィスで聞こえてきたのです」と話すのはノースウエスタン大学文化人類学者のエイディア・ベントン女史。パンデミックに対する準備として、おそらくマスクやワクチン、検査薬だけでなく、公平な労働政策と安定した医療システムを確立することが必要だろう。医療従事者と公的医療専門家がアメリカの社会的免疫システムの確立を評価するだろう。実際この様なシステムは望まれていたとはいえ、ずっと抑圧されていたからだ。

アメリカのアイデンティの特徴についてもCOVID-19以降は考え直す必要があるだろう。パンデミックが起きている間に国家の価値が既存のアイデンティに反するものに見えて来る。パンデミックへの抵抗を見せるために、やりたい事はやろうとすることをアメリカの個人主義、例外論と同一視する人もいる。人々が人命を救う事が目的で自宅待機をしている間も、こういった人はバーやナイトクラブに集まる。9.11事件の後、反テロリズムのメッセージが内在化した数年を経て、アメリカ人は恐れずに生きる決心をした。だが、SARS-CoV-2はアメリカ人の恐怖心(テラー)に付け込まず細胞を攻撃したのだ。

ここ数年間にわたる孤立主義の言辞も悪い結果をもたらした。アメリカ国民は、中国を遠くにある異国と見ていた。そこでは人々がコウモリを食し、独裁体制が布かれ、それが中国国民に受け入れられている。アメリカ人は中国に続いて自国にパンデミックが起きるとは想定しておらず、対応できなかった。(この危機への中国の反応は、中国の問題だと捉えている、だがこれは別問題になるので、ここでは言及をしないでおく)「封じ込め政策が功を奏するという言辞を人々は信じた」と語るのは、ノースイースタン大学で法学と公共医療の研究をしているウェンディ・パルメット。「人を締め出すと大丈夫。アメリカが孤立主義や人種愛国主義の思想を丸々受け入れる国家になった時、パンデミックが襲うと特に脆弱化します」と発言している。

過去に疫病を経験した人々は、長い間ずっと、アメリカ社会がパニックとネグレクトのサイクルに陥ると警告をしてきた。炭疽菌、SARS、インフルエンザ、エボラ出血熱、どの危機も過ぎた後、注意が払われ、対策に対して投資も行われた。でも喉元を過ぎれば、人々の記憶は薄れて予算は削減される。この流れはのろまな態勢を脱却するきっかけになるだろう。一度ニューノーマル(新常態)が始まると、異常事態を想像することが再び難しくなる。だが、COVID-19がより過激で長期的変化をもたらす惨事だと考えられる理由がある。

近年COVID-19以外で、甚大な被害をもたらしたにもかかわらず、アメリカ合衆国に殆ど影響を与えなかった疫病(SARS、MERS、エボラ出血熱)は2009年に発生したH1N1型インフルエンザに比べると軽度と考えられ、またジカ熱やHIVは特定のグループの人の間でのみ蔓延した。一方でCOVID-19パンデミックは、人々の日常生活の質を変えながら誰にでも感染する疫病だと思われる。他の疫病との差別化だけでなく、私たちの生活システムそのものにも挑んでくる疫病だともいえる。体制が気候変動について言葉を濁していた時、その影響を人々は何年もの間感じていなかった。そして影響について言語化することも難しかった。これは、大統領が「検査可能だ」と宣言して翌日には「できない」と発表するのとは違う。パンデミックは民主的生活の体験だ。特権階級に属する人は通常、隔離生活や感染の陽性反応や愛する人を失う経験を回避することが出来る。だが、このパンデミックでは、上院議員が感染している。公共医療施設への支援取りやめ、専門家の喪失、病院を限界まで拡大することの結果は、意見記事に書くまでもなく、肺炎に苦しむ人々の姿で明らかだろう。

9.11事件の後、世界はテロ攻撃対策に焦点をあててきた。COVID-19の後は、人々の関心は公共医療になるだろう。ウィルス学やワクチン学会への援助の急騰が期待される。医療医学プログラムへの学生の修学率がアップし、医療備品の国内生産も増産する。国連総会ではパンデミック防止策が最重要課題となるだろう。アントニー・ファウチ氏は一躍有名人になった。「警察官や消防士がやっている仕事を簡単に考えている人々は、やがて疫学者が何をしているのかを知るようになるでしょう」と話すのは、ジョンホプキンズセンター医療安全部門のメディカル人類学者、モニカ・スパナ。

こういった変化が、次に起きうる疾病から世界を守ることになるかもしれない。「SARSを生き延びた国々は、疫病への意識が高く速やかに対応することが出来ました」と語るのはエボラ出血熱の専門家であるロン・クレイン氏。「現時点で、この国で一番聞こえるフレーズは『こんな事、初めてよ』というものです。少なくとも、COVID-19が発生した時、香港の人々からそういった発言はありませんでした」アメリカ合衆国にとって、そして世界にとって、これはパンデミックが与える影響であることは非常にハッキリとしている。

この経験からアメリカが学んだレッスンは、予想が困難だったという事。特に、オンラインアルゴリズム(その時に得られたデータだけで予測するアルゴリズム)と党派心が露わな放送アナウンサーだけが視聴者の思い込みや先入観に合わせたニュースを報道していた時はそうだっただろう。これから数か月の間に起きる変化は重要な局面になるだろう、と話すのは新アメリカ安全保障センターの外交専門家のイアン・ゴールデンバーグ氏。「第二次世界大戦後や9.11の後の変化は、新しい思考に基づくものではなかった」と語る。「人々には既に、解決策やどう生きるかの概念を持っているが、この数か月の間に激しい議論が起きるだろう。この流動的な瞬間とアメリカ社会がどれほど新しい巨大な変化を受け入れたいと思っているかに関わるからだ」

アメリカがCOVID-19を克服したと、ほぼ全国民が信じる世界を思い描くのは容易だろう。失言にもかかわらず、トランプへの支持率は上がっている。この危機に対する非難を全て中国へ向かうように仕向けている姿を想像してみるといい。悪者に立ち向かうアメリカンヒーローという図で。大統領就任から第二期目の間、アメリカは内側に向かいNATOや国際同盟から脱退した。実際に国境に壁を造ったのは、象徴的でもある。他国への投資もやめてしまった。ジェネレーションCが成長するにつれ、新たな疫病が共産主義やテロリストに替わる脅威となるだろう。

アメリカが異なるレッスンを学んだと将来を予測することも可能だ。皮肉にも社会的距離から生まれた「共通の精神」は、国の内外の隣人へ人々の意識を外側へ向かわせるようになった。2020年11月の大統領選は、「アメリカ第一主義」政策への拒絶となる。第二次大戦後のように、孤立主義から国際協調へと国家が方向転換する。安定した投資と明るい晴れやかな気分が流入し、医療従事者が活性することで国家は持ち直す。公共医療が外交政策の中心となる。アメリカはパンデミックや気候変動などの解決しなければならない課題への挑戦に集中し新たなグローバルパートナーシップを牽引していくだろう。

そして、2030年、SARS-CoV-3がどこかで発生しても、アメリカは1か月で克服するだろう。

(オリジナル記事:How the Pandemic will End by Ed Yong via the Atlantic)

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